Toru Sasaki`s Gallery

ホーチミンの初印象

暗くなって着いたホーチミンの飛行場。
入国審査は、低い天井に裸電球が点いたトタン屋根のバラック。
小さな机にすすけた軍服を着た係官が三人いて異様な雰囲気。

飛行場からホテルへのタクシーは、両側に店が立ち並ぶ、
裸の電球で輝いた狭い道路を走り始めた。いつもの旅と違う飛行場から道程。
いつもは高速道路に入り、徐々にあらわれるビルを見ながら町の品定めをするのに

やがてタクシーの前後を数限りないオートバイに囲まれた。
アオザイの着流しに覆面もある。
それぞれのオートバイに背筋を伸ばしたスリムな緊張した姿が映る。

オートバイは二人乗りが多い。女連れ、子供連れ、三人乗った家族連れ。
同じ方向にオートバイ十数台。ライトを目玉にして左右に振りながら行く群れ。
これに交差して同じく走るのは二十台ほどの群れだ。

あちらの町角からも数十台の群れが現れる。
次々とオートバイの群れが現れ、 群れた生き物のように背筋を立てて、
同じ方向を目指して、それぞれのオートバイが、僅差の時を惜しんで走る

広大な馬場に放たれた馬たちの群れに似ている。
奔放に幾つもグループの先頭の馬が、あちらへこちらへと走り回り主導する
駆け回る足音と、はけたたましく動き回る姿は、ダイナミックで際限がない。

やがてタクシーは丸いガラス張りの光が輝きわたホテルに着いた。
ホテルの前では、十数人の現地人がこちらを見て笑顔で一斉に手を振っている。
タクシーの運ちゃんが愛想良く客待ちをし、ホンダガールズが知己のように手招きする姿。

その後の六日間過ごした五つ星の近代的なホテルの玄関は、
近代という天国と、この地の地獄を分けていた。ガラスの外は、高温多湿で喧噪。
泥をかぶった緑、巨大などぶのサイゴン川。汚れきった電線のオブジェのような町並み

そんな町に出れば、意味のなく見える愛想笑いを一杯浮かべた現地の輪タク、
しつこく、いつまでも追いかけてくる観光業者と、ホンダガールズ。
いつか、自分は植民地時代のフランス人の心境。傲慢にして冷たい風貌かも。

(注釈; でもこれって、自分の適応できないときに見せる当惑の顔でもあろう。 自分の異文化へのカルチャーショックの結果でもあろう。 よく出来た人なら、理解と思いやりをここで示すであろうに!)

明るいホテルの玄関のガラスから、外に踏み込めていけない自分
はじめから、ベトナムは知りたくないとあきらめていた。
エネルギー不足を感じていた明るい五つ星ホテルの一室



(注釈;このホテルに泊まった米国のクリントンは、何を感じていただろう。 ちなみに、このホテルはガイドブックで一泊140ドル、クーポンを使って 80ドル)



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