Toru Sasaki`s Gallery

メコン川ツアー

三日間、ホーチミンから、メコン川クルーズに参加して船に乗っていた。
眺め入るベトナムのデルタを、チベットを源流とする四千キロのこの川は
熱い光の中で白い茶色にきらめきながら、静かに流れていた。



船から見るメコンの川辺は、時に遠く五百メートル先にも見えようか。
岸辺が沈んでしまって見えるほど今は遠い。
そこに明るい緑がこんもりと横一列を成して見える

岸辺が遠くなり近くなりして、見続けるこの緑の影の中には
数十メートル置きに高床の家が建っており、多くの人々が暮らしている。
この水辺の内側にもメコンは狭い水路を縦横に走らせ、生活用水を形成していた。

やがて船はこの生活用水に入り、 人々の暮らしぶりも見せてくれる。
子供たちの群れが、茶色の水にドボン、ドボンと飛び込んでは手を振る。

この暖かな茶色の水は、
日本人には抗体のない細菌、微生物が どれだけ含まれているか計り知れないから、
触りたくもないが



男が肩まで浸かって魚を獲る網を仕掛けている。
別の女が家の縁側から、しゃがんで食器を洗っている。
アヒルが子供たちを十羽もつれて、水の輪を作り隊列を作ろうとする。

ドアを開けて一歩だけ外に出れば、そこに川の流れがある。
風呂場に入るような感覚で、ドアをあけドボンと浸かる。
洗い物のため台所に立つような感覚で川に出る。



生きていくことは 川の水を飲み、
川の魚とアヒルを食べ、川で洗い物をし、 川に飛び込み、
髪をすいて一日を終えることだ

夕日の中で、女が首まで浸かって髪を洗う。
一日の終わりの安心をつげる。髪を洗う姿は伸びやか。
安心に満ちたこころが川辺に流れる。



夕べの、川辺の風景を見ながら、ヨーロッパの若者を乗せた観光船は行く。
観光船の若者たちと、岸辺の子供たちの交歓がいつまでもつ続きながら、船は行く。
大人も子供も、よく川に浸かっているのが見える、一日に何度も水あみをする

貧しいかもしれないが、なんと言う自然に浸りきった幸せな生活だろうか
もう日本では遠の昔になくなった自然と調和した生活だ。
テレビも新聞も要らないではないか、

自然がもたらす物だけを食べて 自然のサイクルの中に生き死んで行く。
人々はそこに身を投げ出していれば良い。
うらやましい位で、貧困への同情はない。



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